| <議決権制限株式の活用>
(1) 上記の通り会社の売り渡し請求という方法を用いることで相続制度を図り得ますが、買い取りについては財源規制が置かれており(会社法461条1項号)、資金的余裕のない場合には当該方法はとり得ないことになります。
(2) そこで、相続人から株式を買い取るのではなく、同人が保有する株式の議決権を制限することで会社経営の安定を図るという方法が考えられます。
この点、現行商法においては、すべての会社について、議決権制限株式の数は発行済株式総数の2分の1を超えてはならないと規定されていますが、会社法においては、株式譲渡制限については、議決権制限株式の発行数に制限を設けないこととされています(会社法115条)。
この規定によって、株式譲渡制限会社においては、議決権制限株式の上限ルールの制約を受けることなく、会社にとって好ましくない相続人の保有する株式を議決権制限株式とする手法を利用しやすくなったの言えます。
<定款による属人的な定めの活用>
また、会社法においては、株式譲渡制限会社について、株主平等原則(会社法109条1項)の例外として、剰余金の配当を受ける権利、残余財産の分配を受ける権利および株主総会における議決権について、株主ごとに異なる扱いを行う旨を定款で定めることができるとされています(会社法109条2項、105条1項)。
この規定を利用し、会社経営にとって望ましからぬ相続人の議決権を制限することで、円滑な会社運営を図ることが期待されます。
<事業承継におけるM&Aの活用>
また、事業承継を考える上では、M&Aを利用し、経営権を移転させる手段が有効であると考えられます。
M&Aの手法としては、既存株式の譲渡、第三者割当増資等の新株発行、株式交換・株式移転、合併、会社分割、営業譲渡などが考えられますが、以下では、これらの制度のうち中小企業の経営者にとって比較的身近と思われる、営業譲渡と既存株式の譲渡について、その概略を説明いたします。
(1)営業譲渡
営業譲渡の最大のメリットは、買主が引き継ぐ資産や負債の内容を当事者間の契約で自由に選択できるという点があげられます。すなわち、買主は簿外債務、偶発債務の承継を回避できるというメリットを有します。
一方で、営業譲渡では、債務の移転について、債権者全員から個別の同意を得なければならず、債権者が複数の場合には実現が困難である、従業員との間の労働契約には譲渡性がないと解されているので、承継について複雑な手続を必要とする、許認可につき譲受会社が再度取得を余儀なくされる場合があること等が問題点とされています。
(2)既存株式の譲渡
既存株式の譲渡は、対象会社に対する権利をもっとも簡便に移転する方法であるとされるうえ、対象会社が有する種々の法律関係に原則として影響を与えることなく支配権を移転できるなど、実務上極めて有用な方法と考えられます。
また、創業者は保有する既存株式を譲渡することによって、創業者利益の実現を図れます。
なお、対象会社の潜在的な瑕疵は、株式の譲受人が引き継ぐことになり、この点はデメリットともいえますが、責任は株主有限責任の原則により制限されており、一定の保護は図られていると言えます。
本稿では紹介できませんでしたが、この他にもM&Aには様々な方法があり、各方法のメリット・デメリットを検討しながら、目的に応じた手段を選択することになります。
弁護士 西依 大輔
南谷綜合法律事務所
南谷綜合法律事務所所属 弁護士
1974年生
佐賀県立佐賀西高校卒業
大阪大学大学院法学研究科修了
2001年福岡県弁護士会に弁護士登
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